Knowledge基礎知識
会社が事業の一部を売却するのはどんなとき?典型的なケースと注意点を紹介
経営上の戦略として、会社を丸ごと売るのではなく「事業の一部だけを切り出して売却する」という手法もあります。
どのような場面で一部売却が検討されるのか、そして売却にあたっては何に気をつければよいのか、事業売却に関心のある事業者はチェックしておきましょう。
一部事業の売却を行うケースとは
事業の一部を売却する理由は各社さまざまですが、共通しているのは「会社全体を売るほどではないが、この事業を手放すことが経営上の合理的な判断になる」という状況です。
その典型的なケースを挙げていきます。
不採算事業を切り離したいとき
複数の事業を展開しており、特定の事業だけが慢性的な赤字や低収益に陥っているケースもあるでしょう。その事業を売って経営資源を収益性の高い事業に集中させるため、一部事業の売却が決断されることがあります。
特に中小企業では資本力が限られるため、不採算事業を抱え続けるのは会社全体の存続にも大きな悪影響を与えかねません。しかし売却が上手くいけば、資金や人材を別の事業に集中させられます。
事業売却で資金を調達したいとき
設備投資や新規事業への参入にあたって手元資金が不足している場合、資金を捻出するために保有する事業の一部を売却することがあります。
金融機関からの借入が難しいケース、借入よりもスピードが求められるケースなどで、事業売却が効果を発揮することもあるでしょう。
ただし売却益には法人税が課されるため、税負担も考慮し、手元に残る実質的な資金を試算しておくことが重要です。
自社方針に合わなくなった事業を手放したい
事業環境の変化や経営方針の転換を機に、本来の強みや方向性と合わなくなった事業を売却により手放すケースもあります。
戦略的なポートフォリオ再編を進めつつ、売却により相応の対価が得られることもある、という利点が得られるでしょう。
後継者問題を解決するために事業を売る
「会社全体ではなく一部の事業だけを承継させる必要がある」「特定の事業が原因で後継者への引き継ぎが進まない」などの状況下で、当該事業部門だけを売却して第三者に運営を任せるケースもあります。
なるべく後継者に負担をかけることなく円滑に事業承継を進めたい、現状のままだと後継者が前向きに考えてくれない、などの問題があるときに事業売却が解決策として機能することもあるでしょう。
一部事業売却を進める2つの方法
一部事業を売却する方法として代表的なものに、①事業譲渡と②会社分割の2種類が挙げられます。
いずれも事業の一部を切り出して買い手に承継させる点は共通していますが、仕組みと特徴が異なります。
以下の表に2つの方法の主な違いをまとめます。
| 相違点 | 事業譲渡 | 会社分割 |
| 資産や契約の 承継方法 | 個別に特定して譲渡 | 包括的に承継(原則として個別の同意が不要) |
| 従業員の 承継方法 | 個別の同意が原則必要 | 労働契約承継法のルールに従う ※分割前の通知や説明、解雇制限などが規定されている |
| 債務の 承継方法 | 当事者間の合意で承継する債務を選択できる ※債権者の同意が別途必要 | 契約で定めた範囲の債務が移転する |
| 手続きの 複雑さ | 対象が多いと煩雑になりやすい | 法に沿うため手続きは統一的だが公告・催告など組織再編手続きが必要になる |
事業譲渡は、引き継ぐ資産・契約・債務を個別に選べるため、簿外債務など不要なリスクを承継させないようコントロールしやすいです。
一方、会社分割は個々の契約についてあらためて相手方の同意を取り直す必要がなく、多数の取引先や契約が絡む事業には効率的といえるでしょう。
どちらを選ぶべきなのかは、事業の規模や契約関係の複雑さ、売却の目的によって異なるため、専門家に相談しながら判断することが望ましいです。
手続きで注意すべき法的ルール
事業の一部売却を行うときは、法律上の規定に従い以下の点に気を付けましょう。
- 株主総会の特別決議が必要かもしれない
・・・事業譲渡の対象が会社にとって「重要な一部(総資産の1/5超が基準)」であるときは、株主総会の特別決議が法的に求められる。 - 競業避止義務が課される
・・・事業譲渡を行った会社には競業避止義務が課され、同一地域において一定期間、譲渡した内容と同様の事業を行ってはならない。 - 従業員や取引先への対応
・・・事業譲渡では従業員が当然には買い手に引き継がれず、原則として個別の同意が必要。一方的に転籍を強いることはできず、各従業員への丁寧な説明と合意形成が欠かせない。
また、事業売却後「表明保証違反」によるトラブルが生じることもあります。表明保証とは「売却対象の事業の状況は契約書に記載したとおり」と売り手が保証することをいい、後から隠れた債務など予想外のリスクが発覚したときに表明保証違反となり得ます。結果、損害賠償責任を問われることがあるのです。
こうしたリスクも軽減するためにも、事前に自社の財務・法務の状況を正確に把握しなくてはなりません。弁護士にリーガルチェックを依頼するなど、手続きの開始前から専門家を関与させておくと良いでしょう。